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第3回 食品薬学シンポジウム

第3回 食品薬学シンポジウム

ブラジル産薬用植物由来タヒボの基礎的新知見
■2009年11月12日~13日 大阪府・東大阪市
「Fundamental and progressive findings of Brazilian herb plant, Taheebo, Tabebuia avellanedae」
Akira Iida (Faculty of Agriculture, Kinki University), Mitsuaki Yamashita and Masafumi Kaneko (Faculty of Pharmacy, Takasaki University of Health and Welfare) , Shoji Hirata (Hirata Clinic for Oral and Maxillofacial Surgery and Medical Oncology Cancer Care Village Sapporo) , Harukuni Tokuda and Nobutaka Suzuki (Kanazawa University , Graduate School of Medical Science)
ノウゼンカズラ科植物Tabebuia avellanedea(タヒボ)は、ブラジル北部 からアルゼンチン北部に至るいわゆる南米アマゾン地域に植生する樹高 20~30mにもなる大木で、その幹は水にも沈むほど堅牢な樹木として知ら れている。この樹木の厚さわずか7mmの内皮部分は、遠くインカの時代よ り種々の疾患に効能がある伝承薬用植物として用いられてきたことから、現 在、その有益性に関する研究が広く行われている。我々は20年近く前より、 T. avellanedae のもつ生物活性、なかでも特にがんに対する有効性を明 らかにすべく研究を続け、ナフトキノンNQ8011, 2)を発がん抑制物質として 特定した。その後わが国でも、一般に健康茶の形態で提供され、多くの方々 にその効能が理解され愛飲され続けている。
 一昨年、T. avellanedae に含有される発がん抑制成分の一つである β-lapachoneがすでに米国におけるがん臨床試験でフェーズIIまで進んで いる事、またβ-lapachoneが大量合成されていたことが判明した。現時点で は、治療が困難とされるすい臓がん等に対して、特殊な形態での静脈投与 が行われており、抗がん剤としての開発を目指しているものと思われる。
 一方、同時期、タヒボの有用性をより高める目的で、我々がこれまで研究 に用いてきた実際の市販品であるタヒボエキス(タヒボジャパン社提供)に、 NQ801やその類縁体を有意に含有する粗抽出分画を新たに加えた、いわ ゆるデザイナーフードの形態をとった素材であるX6(バイシックス)(タヒボジャ パン社提供)とよぶ市販品が開発された。また、β-lapachoneより生物活性 に優れるNQ801の化学合成3, 4)も達成された。今回、X6とNQ801を試験試 料として、それらのがんに対する抑制活性試験を行ったので、その結果に ついて報告する。
 これまで実際にがん疾患患者に使用された事例より、特にヒト由来の肺 がん細胞であるA549と乳がん細胞であるMCF-7を用いて、X6の増殖抑 制作用を調べた。細胞がシャーレに完全に付着した状態の基礎培地1ml に被験化合物を加え、3日間反応後、すべての細胞を蕃集し、特異的なトリ パンブルーにて染色、その生存細胞を計測するとともに、その形態に関して も観察を行った。それぞれ3回の試験を行ったが、これまでのタヒボエキスと 比較して約6倍の細胞増殖抑制作用を示した。細胞の形態は、通常の繊 維芽細胞様から円状構造への明確な変化を示した。また、その割合はX6 のほうが多く、さらに高濃度でより高くなる傾向が認められたことから、X6が この2種のがん細胞に対して、高感受性であることが示唆された。さらにこ の形態変化は殺細胞作用とは異なり、細胞分裂の抑制の一つの過程で ある細胞休止期を維持していると考えられる。それゆえ、実際の生体内でX 6によって引き起こされると予想される種々の傷害は軽度であると考えられ ることから、X6は有用ながん予防薬となる可能性を秘めている。一方、NQ 801の上記2種のがん細胞に対する作用を既存の5FUやマイトマイシンC のそれらと比較すると、その殺細胞能は弱いものの、顕著な細胞毒性は認 められなかった。したがって、β-lapachoneと同様、NQ801もまた医療への 応用が期待できるものと考えている。
X6とNQ801の有意な細胞増殖抑制作用が確認できたことから、次に小 動物であるマウスを用いた発がん抑制試験を行った。発がん抑制作用に 関しては、世界的に認められ、かつ簡便に明確なデーターが得られるマウス 皮膚二段階発がん抑制試験を進めた。SENCARマウスの背部を剃毛し、 1日後、その部位に発がんイニシエーションとしてDMBAのアセトン溶液を塗 布、その1週間後に発がんプロモーターとして同部位にTPAを塗布する試 験系で、発がんプロモーター塗布1時間前にTPA量の50倍のタヒボエキス、 X6、NQ801をそれぞれ塗布し、溶剤であるアセトンのみを塗布する陽性コ ントロールと比較することで評価を行った。腫瘍の発生率と発生数から判 断して、X6はタヒボエキスより強い抑制効果を示した。また、NQ801はX6よ りさらに顕著な抑制効果を示した。さらに、腫瘍の発生に関して遅延効果が 認められ、この効果は生体において発がんに至る経過が少なくとも数年間、 回避されることを示している。また、腫瘍の形態を陽性コントロールのそれと 比較すると、腫瘍径が減少しており、生体を維持する能力が高いことを示し た。このような結果から、現時点においては、タヒボエキスは健康を志向す る一般的なヒトを対象として、一方、X6は生体内にがんの症状を感じたヒト を対象として用いることを考えている。ヒトに対して有用なものとして伝承的 にのみ膾炙された“もの”が、がん研究の最先端を行く米国において科学 的手法により詳細な研究がおこなわれている事実は、我々が永年に亘り研 究を続けてきたタヒボという有用天然素材を次なるステップへ発展させる方 向性を確実なものとした。その成果について、今回、若干の臨床例も報告 する予定である。
参考文献
1) Ueda, S., Tokuda H. Planta Med., 56, 669 (1990) 2) Ueda, S., Umemura, T.,Dohguchi, K., Matsuzaki, T., Tokuda, H., Nishino, H., and Iwashima A. Phytochemistry, 36, 323 (1994) 3) Yamashita, M., Kaneko, M., Iida, A.,Tokuda H., and Nishimura, K. Bioorg. Med. Chem. Lett., 15, 6417(2007) 4) Yamashita, M., Kaneko, M., Tokuda, H., Nishimura K., Kumeda Y., and Iida, A. Bioorg. Med. Chem.,17, 6286 (2009)
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