第10回 日本補完代替医療学会学術集会(ランチョンセミナー)
ブラジル産薬用植物タヒボとその素材含有成分“NQ801”の抗がん作用に迫る■2007年11月3日~4日 福岡県・福岡市
「Evaluation for anti-tumor and anti-tumor promoting activity from herbal medicine, Tabebuia avellanedae and its constituents」
Harukuni Tokuda (Department of Biochemistry, Kyoto Prefectural University of Medicine)
Ⅰ.タヒボ(Tabebuia avellanedea, Bignoniaceae)の紹介
学名Tabebuia avellanedea、タベブイア・アベラネダエ、ノウゼンカズラ科、略語として TAとする。その堅牢な20~30mの樹高になる樹木は、かつて数百年前より南米に高度 な文明を築いたインカ帝国で、当時の種々の悪性疾病に対して、いわゆるFolk Medicine として使用されていた。その知見は伝承的に「神からの恵みの木」として、 有用な効果と認められて、近年まで永年に亘ってその効能が能い素材として確実に 伝えられてきた。事実、この地域の先住民には歴史的にも疫病等の発生はなく、この ような“もの”が、その他の地域では歴史に記載されるような悲惨な影響に対し、この 地域ではその予防に役立っていたものと考えられている。そのようなこともあり、現在も この樹木が、古代同様にこの地において親しみをもって日々の生活の中に根付いて いる証拠として、この花の同属の黄色花は原産地であるブラジルの国花として使用され ている。最近になり、そのような評価に注目して、とくにその利用価値が高いとされる内部 樹皮を用いて、その素材を学名に因んでタヒボとした。わが国では、主にタヒボジャパ ン社が中核となり、日本におけるその必要性を認識してその普及につとめ、その結果とし て我国でも広く認知されるようになった。主に煎じて飲料する形態で幅広く一般に、加 えて種々の疾患を有する人も含めて、その優れた働きに期待して、通常は簡便に使用 する方法にて提供してきた。現在、内部樹皮の微粉末を熱湯抽出液、または抽出液のフリ ーズドライの形態にしたもの、さらに抽出エキスをソフトカプセルに充填した形態のも のが市販されている。
当素材は、上述のように、まず古来より多くの人類、ヒトが用いていたという特徴ある 性質で、これは非常に重要な項目であり、歴史上生き物が口等より多くの物を食する 過程で、多分、多くの生き物がその強力な非栄養・非嗜好の性格より犠牲になってきた ものと考えられる。永い年月の食生活のなかで、今日、普段われわれが食するもの、口に するもので、体に悪影響のないものだけが、幸いにもわれわれの知恵でこれまで伝え られてきた。そのような“もの”のひとつがこのTAであり、人々の伝承によりヒトの体 に能いもの、ヒトに適したもの、大事な事項であるヒトに害のないものとして、幸運にも 今世紀まで次世代の贈り物として維持されてきたものと理解している。このようにTA は基本的にヒトでその有用性が、口伝えであるが、実際に体験されてきたものであると いう事実が、とくに重要な点である。
最近になり、そのような“もの”にも、やはり最新の科学的な説明が重要、必要不可欠 となり、一般にもその説明を提供することで、よりその伝承的な記述の理解を進める 検証をわれわれは始めた。タヒボジャパン社より提供の材料を用いて基礎基盤的な 考察として、ヒト由来細胞、また主に小動物を用いた試験での解析、またそこから得ら れた処理済み材料による解析により、既知であるヒトでの有用性の再現、確証をめざした 例を紹介し、その注目、期待される意味を現時点で報告したい。
Ⅱ.その有用含有成分
ここで使用しているタベブイアに関しては、約20年前にドイツの高名なProf. Wagnerらに より、精力的にその含有成分の分析・構造解析が行われ、多くの化合物を同定した。多く の食用物にも含まれている天然に存在する芳香族類が、やはりそのなかにも認められ、 この樹木の生物資源としての有用性が期待された。そのなかで、実際に一般に市販され ている微粉末物について、確定されたある特定地域で自生、伐採された粗材で、さらに 新鮮なものには特有の香り、ならびに実際に口にした場合、多少の甘味を感じることが 知られている。この特徴は重要な因子で、その素材の品質評価のひとつとなる事項で、 成分としてvanillin(バニラ)と規定される化合物である。この化合物の含有は、多分この 素材の、多くのヒトでの使用における嗜好をうながすものと考えている。その根拠として、 これまでわれわれが進めた検証においては、とくにその有用性を示唆する項目はなかった が、しかしその含有する意味は、この樹木に密接に関連するものと考えている。
タベブイアに含有する化合物のなかで、近年になって注目されてきた化合物は、有機 化学の構造式としてキノンと分類されるもので、天然色素として知られ、医薬品としても 重要なものが多い。そのなかで、先のProf. Wagnerらが生理活性物質として単離した ものは、ナフトキノンに属するLapacholで、彼らのグループは抗腫瘍活性に関して精力 的に研究を行ったが、結果として既存の抗腫瘍剤と同程度の活性という結論から、 現在保留という処分となっている。現在は市販されており、試薬として同じベンゾキノン に属する有力な抗腫瘍剤であるMitomycinの生理活性比較として用いられている。
タヒボジャパン(株)より提供されたTAから、われわれはLapacholより生理活性の 強い、5-hydroxy-2-(1-hydroxyethyl)-naphtho[2,3-b]furan-4,9-dione(成分コードネーム NQ801)をその内部樹皮部より単離、一方、Lapacholがその心材部に含有することも 認めた。これら貴重な試料である内部樹皮の微粉末とともに、NQ801関して、現在、 わが国の国民病となった‘がん’に対する効能を検証し、NQ801については、がん疾患 に関連して各国にて特許を取得した。さらに幅広い検討を加える目的もあり、この NQ801の有機化学的合成を試みて、最近、純品の合成化合物も得ることができた。
Ⅲ.基礎実験とヒトでの適応例
現在、われわれはとくに‘がん’という疾患に対する対応として、タヒボジャパン社提供 のTA由来の試薬を用いて試験を行った。基礎基盤試験として、まず最も単純系の解析 を目的として、ヒト由来各臓器正常細胞、がん細胞を用いて抗腫瘍効果を、われわれの 確立したヒト由来リンパ腫を用いた簡便な方法で、がん予防効果の検討を進め、微量 での効果的作用の最適解析を行った。また同様の試料で、さらに詳細な解析として 情報伝達系での特徴的な動態を判定した。より高等な系として小動物、とくに遺伝的 に安定したマウスを用い、既知であるヒト誘発発がん物質を選択的に作用することで、ヒ トでの効能を期待して同様の使用法を用いて解析した。ここで示した成果は、‘がん’に対 する関連を明確にするのに強い期待を示すものであった。さらに、ヒトでの使用時におけ る重要な項目として、その生体内中での動態の解明が、より信頼性を高める手段である ことから、将来の機能評価の証明も目指して、血清中でのTA由来物の解析も進めた。
ヒトでの適応例として、これまで実際に使用された方々から報告をいただいた症例が、 タヒボジャパン(株)に多く保管されてあり、その記述事項を確認・考察することで、その 有用性を解析してきた。とくに西洋医学の範疇では、まだ十分に検証されていない場合 の判定をおこなった。このなかには、消化器系においてエキスのみを用いた例で、がん の退縮を予測する体験もあり、顕著な副作用もなく評価できることから、このような実証を 積み重ねている。この意味するところは、‘がん’に関して現在医学では得がたい働き が認められ、このことから、ヒトへの適応に向けての経験的有効性、安全性の検討で、 今後の道標とする。
Ⅳ.がん疾患を背景とした重要性
年ごとに‘がん’罹患者数の全体は増加し続け、現時点では日本国民の二人に一人 が罹患し、その結果この病気にて死亡するという重要な疾患で、いよいよ国民病と規定 されつつある。そのことから、わが国でも“がん対策基本法”が施行され、その対策に われわれの思いが取り入れられ、いよいよ再認識されてきた。そのなかで、とくに肺がん の増加は顕著であり、その原因には多くの因子が考えられ、その成因には不明点が多く、 まだ改善効果は認められない。ヒトを構築する60兆の細胞は、多くの場所で細胞が絶 えず壊れ、再生するという状況で、このような状態が続くと身体のどこであれ‘がん’が できやすくなり、これは高等動物の宿命である。先年の米国からの報告で‘がん’の理解 を進めたところ、そこで得られたことは、がんの複雑さ、臓器ごと、組織ごと、患者さんごと に微細なレベルで大いに異なるということである。
そのような状況から、われわれは‘がん’に対するその有用性を提供することが責務と 考え、その戦略として、積極的に‘がん’と戦うのではなく、平和的に共存・共栄すると いう考え方を進めた。その目的として、TAを古来よりの伝承を踏まえて、その応用として 進め、補完代替医療で掲げる‘がん’に関して、現状の医療では得がたい効能の開発を拓き、その評価を期待している。